Clinical activities
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はじめに
下の図は、我が国の人口構成の変化を示したものです。我が国は世界でも類を見ない急速な人口高齢化を迎えています。このことは、我が国の医療においても、主要患者年齢層が大きく変わり、疾患構成が大きく変化することを示しています。事実、脳血管障害、アルツハイマー病、パーキンソン病などの脳神経疾患の患者さんは急速に増大しつつあり、この傾向は今後20年間ますます顕著となると予想されます。脳神経内科はいうまでもなく、こうした脳神経疾患の診療を担う内科の一分野です。今後、社会から活躍がもっとも期待されている分野です。脳神経内科医は多くの需要があり、このため供給不足の状況が続いていますが、京都大学神経内科は、先頭に立って社会に貢献し、指導的立場で活躍する脳神経内科医を養成したいと考えています。
変貌する脳神経内科
さて、脳神経内科というと、学生時代、わかりにくい、やや取つきにくい印象を受けた人は少なくないのではないでしょうか。現在、脳神経内科医として活躍しているみなさんの先輩も、学生時代には同じ印象を持っていました。この理由の一つに、教科書に記載されている神経疾患の大部分は原因不明であり、症候と病理をもとに疾患が分類されていて、「○○核や△△核は脱落するが、××核や◎◎束は変性を免れる」という記載のイメージもわかず、なぜそうであるのか理解できないためかもしれません。もちろん、こうした疾患を症候や病理からとらえることは、実際の診療を行う上で大変重要であり有用ですが、脳神経内科のトレーニングをしていないものにとってはピンとこないものでした。近年、急速な分子生物学の進歩によって、多くの脳神経内科疾患の原因の一端が解き明かされつつあり、多くの変性疾患に共通した仕組みが見いだされ、いままではよくわからなかった「なぜそうなるのか」が逆に疾患を理解する手がかりとなり、疾患への理解が深まっています。こうした点から、神経内科疾患は難解で、取つきにくいという印象はもはや次第に過去のものになりつつあります。また、こうした疾患へ深い理解が、今後の治療法の開発につながり、治療も今後大きく進展することが期待されており、サイエンスとしても大変エキサイティングな分野といえます。
専門性の高い脳神経内科診療
前述のように、大きな進展が起こりつつある脳神経内科ですが、これと対照的に脳神経内科の診療スタイルは、内科の中でももっともオーソドックスであり、古典的といっても良いかもしれません。内科診断学は、病歴、診察所見をもとにして、鑑別診断を行うという手順が重要ですが、医学の進歩とともに、多くの疾患が血液検査や画像診断によって、誰が診療しても同じ結論が得られるようになりつつなり、問診や診察よりも補助検査が重要視されます。しかし、脳神経内科疾患では、現在もなお、ベッドサイドでの所見が重要な役割を果たしています。たとえば、代表的な神経疾患であるパーキンソン病では、血液検査を行っても、脳MRIを施行しても異常所見は得られません。しかし、病歴と神経学的所見を得ることによって診断が可能であり、いってみれば病歴とハンマー一本で診断が可能です。このように、神経内科は、トレーニングを受けた専門家が診察することにより、正しい診断、正しい判断が行われる、きわめて専門性の高い分野です。髄液検査を施行する際、脳ヘルニアのリスクがある頭蓋内圧亢進症は禁忌となります。みなさんは、夜間、細菌性髄膜炎の可能性のある患者さんを前にして腰椎穿刺を行い、直ちに抗生物質の投与の開始を行うかどうかを決定しなければならない立場になったらどうしますか。CTを施行し頭蓋内圧亢進がありそうかどうかを検討しますか?この場合の正しい判断は、眼底にうっ血乳頭があるかどうかの判断です。CTで占拠病変があっても、うっ血乳頭がなければ腰椎穿刺は可能で、CTではっきりした所見が無くてもうっ血乳頭があれば腰椎穿刺は原則禁忌です。後期研修では、こうした専門医に要求される実践的な判断能力、診療能力を徹底的に身につけてもらうことを目標としています。泳げるようになるには、実際にプールで泳ぎを習うことが一番です。いくら良い指導書を読んでも泳げるようにはなりません。
脳神経内科入院症例
疾患名 | 2008年度 | 2009年度 | 2010年度 |
虚血性脳血管障害 | 155 | 153 | 152 |
脳出血 | 8 | 6 | 4 |
てんかん・けいれん | 179 | 155 | 153 |
認知症 | 40 | 38 | 33 |
パーキンソン病および類似疾患 | 125 | 187 | 189 |
運動ニューロン疾患 | 47 | 36 | 40 |
脊髄小脳変性症 | 28 | 57 | 54 |
多発性硬化症等の脱髄疾患 | 30 | 24 | 14 |
脳炎などの感染症 | 17 | 38 | 43 |
脊髄疾患(HAM、脊髄炎など) | 12 | 40 | 40 |
末梢神経疾患 | 32 | 53 | 46 |
うち、CIDP, MMN | 15 | 18 | 12 |
筋疾患・重症筋無力症 | 47 | 90 | 83 |
内分泌・代謝疾患 | 13 | 14 | 5 |
全疾患延べ件数 | 748 | 909 | 868 |
表1に示すように、京都大学脳神経内科では神経変性疾患のみならず、脳血管障害急性期、脳炎、てんかん重積、内科疾患に伴う中枢神経合併症など、多くの脳神経内科救急疾患に積極的に取り組んでおり、回診・カンファレンスでは時間をかけて一例一例徹底的に討論します。こうした努力の結果、これまでに、京都大学の脳神経内科は多数の脳神経内科専門医を輩出しており、この点でも日本で有数の施設です。今後も、多彩な症例の診療を通じて、脳神経内科専門医に必要な一通りの手技、知識、判断能力を身につけてもらい、荒波の中でも泳ぎ切れる実力ある脳神経内科医を養成します。この目標達成のために、京大脳神経内科では表2に示すタイムテーブルに沿って研修を進めており、後期研修では表3に示す目標を設定し、研修終了後は日本神経学会専門医が取得できるように指導しています。また、後期研修の途中からは、研修医の教育にも携わっていただきます。これは、自分が後輩を指導することにより、改めて知識が整理され、また、脳神経内科医として活躍する喜びを次の世代に伝えてゆくことが大切であり、みなさんの先輩方そうであったように、教育に携わることは医師として成長にも重要なものととらえているからです。また、症例報告、学会発表も積極的に押し進めています。
卒後教育概要
研究内容 | 研究施設 | |
1年目 | スーパーローテーションプログラム | 大学・研修協力病院 |
2年目 | スーパーローテイションプログラム (選択科目として脳神経内科研修も可) |
大学・研修協力病院 |
3年目 | 認定内科医のための研修 + 脳神経内科初期研修(病棟医・検査研修) |
大学Jr.レジデント 脳神経内科教育(関連)施設 |
4年目 | 認定内科医 取得(内科学会) 脳神経内科後期研修(病棟指導医・その他) |
大学Jr.レジデント 脳神経内科教育(関連)施設 |
5~6年目 | 脳神経内科後期研修(病棟指導医・その他) | 大学Sr.レジデント 脳神経内科教育(関連)施設 (大学院) |
7年目 | 神経内科専門医取得 | 大学Sr.レジデント 脳神経内科教育(関連)施設 (大学院) |
脳神経内科後期研修(4~6年) |
■ 脳神経内科専門医資格取得を目標にした高度な研修 ■ 病院主治医あるいは指導医 ■ 病例報告・学会発表 ■ チーフレジデントとして豊富な疾患をオーバービュー(3ヶ月交代) ■ 検査(指導医のもとで研修) ■ 神経放射線(MRI、CT、SPECT、PETなど) ■ 電気生理学的検査(筋電図、神経伝導検査、脳波、磁気刺激検査など) ■ 神経病理(CPC、筋生検、神経生検など) ■ 神経化学・神経遺伝学(遺伝子診断など) |
研修修了後の進路
すでに述べたように、後期研修プログラム終了時には重要な到達目標である日本神経学会専門医を取得できるようにプログラムが組んであります。専門医取得後、京大の関連施設など医療の第一線で活躍することも可能です(表4)。
脳神経内科卒後研修 例(1)
1年目 | 卒後臨床研修プログラム(京大および京大関連病院) |
2年目 | 卒後臨床研修プログラム:選択コース(京大神経内科) |
3年目 | 京大病院脳神経内科Jr.レジデント |
4年目 | 京大関連病院脳神経内科にて臨床実施研修(1) 認定内科医 取得 |
5年目 | 京大関連病院神経内科にて臨床実施研修(2) |
6年目 | 京大病院脳神経内科Sr.レジデント |
7年目 | 大学院1年目 神経内科専門医 取得 |
8年目 | 大学院2年目 |
9年目 | 大学院3年目 |
10年目 | 大学院4年目 |
11年目 | ~教員、関連病院への就職、留学など |
脳神経内科卒後研修 例(2)
1年目 | 卒後臨床研修プログラム(京大および研修指定病院) |
2年目 | 卒後臨床研修プログラム(京大および研修指定病院) |
3年目 | 京大病院脳神経内科Jr.レジデント |
4年目 | 京大関連病院脳神経内科にて臨床実施研修(1) 認定内科医 取得 |
5年目 | 京大関連病院脳神経内科にて臨床実施研修(2) |
6年目 | 京大病院脳神経内科Sr.レジデント |
7年目 | ~神経内科専門医 取得 関連病院への就職、臨床留学など |
表5はみなさんの先輩方がスタッフとして活躍している病院です。これらの病院は地域の第一線病院であり、原則的に大学での研修の中でローテートしていただきます。このことにより、総合的な脳神経内科の臨床能力が身につくよう配慮しています。
もちろん、脳神経内科領域にはまだまだ、科学的に解明しなければならない多くの医学的問題がありますので、大学院に進学してこうした問題に研究面で挑戦する道も開けています。
連絡先
どうぞ、神経内科専門医として活躍することに興味のある方は下記にご連絡下さい。
入局のご相談にも乗りますし、さしあたって入局する予定のない方でも研修に興味のある方は歓迎いたします。中途入局者も大いに歓迎いたします。
問い合わせ先メールアドレス neuroofc@kuhp.kyoto-u.ac.jp