神経画像グループ
研究内容
パーキンソン病やアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患を対象に、MRIや核医学などの画像技術、さらには電気生理学的手法を活用して病態解明につなげる臨床研究を展開しています。具体的には、神経細胞の変性やアミロイドβの異常蓄積をMRIや核医学検査で可視化し、より正確な診断に役立てています。また、高磁場7テスラMRIを用いて、従来の画像解析では捉えることができなかった微細な構造異常を特定する研究も進めています。このような最先端の技術を駆使して、神経変性疾患の克服に向けた詳細な病態解明を目指しています。
パーキンソン病のサブタイプ分類に関する研究
パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質であるドパミンが不足することで特徴的な運動症候状が現れる疾患として知られてきました。現在、この疾患の進展はある一定の様式に従うという仮説(Braak仮説)で理解されるようになっています。しかし、この仮説では、高齢発症の方と比較して、若年発症の方が長らく症候の変化が乏しいなど、うまく説明できない現象も存在します。
私たちは脳MRIを用いた研究から、パーキンソン病には脳萎縮の空間的・時間的パターンが異なる3つのサブタイプが存在することを報告しました(Sakato et al., Brain. 2024; 図参照)。皮質萎縮群・辺縁系萎縮群・脳幹萎縮群の各サブタイプは、発症年齢や認知機能、精神症状、自律神経症状などに差異がみられ、皮質萎縮群では高齢発症の方が多いことが明らかになりました。今後は、こうした分類が一人一人の患者さんに適した治療法の選択に生かすことができるように研究を継続していきます。
認知機能障害に関する研究
認知機能障害を引き起こす疾患の中で、アルツハイマー病は最も高頻度にみられるものの一つです。私たちは、認知機能障害を多面的に評価し、脳構造MRIやアミロイドβの異常蓄積を可視化し、臨床診断に活用しています。
パーキンソン病患者さんの中には、認知機能障害が進行しにくい方と、進行してしまう方がいることが疫学研究で示されています。私たちは、注意力や遂行機能の低下には線条体、特に尾状核へのドパミン神経の障害が関与している一方、記憶障害や視空間障害には大脳皮質の萎縮が関連していることを示しました。この結果は、前者のみを持つ方では認知機能障害が悪化しにくい一方、後者を伴う方は進行する可能性が高いことを示唆しています (Yoshimura et al., Eur J Neurol. 2025; 図参照)。また、アルツハイマー病で知られる前脳基底部の変性が、パーキンソン病でも起こり、海馬の障害と関連して言語性記憶障害につながることを示しました(Tsukita-Sakamaki et al., Parkinsonism Relat Disord. 2024)。私たちはこのような研究を通じて、認知機能障害の神経メカニズムを解明し、新しい薬物療法の開発に貢献することを目指しています。
パーキンソン病のドパミン神経細胞変性と運動障害に関する研究
パーキンソン病の運動障害は、中脳黒質の細胞体から線条体へ投射するドパミン神経細胞の変性によって引き起こされます。私たちはこれまで、中脳黒質のドパミン細胞体の変性が進行期のバイオマーカーとして、線条体のドパミン神経終末の変性が早期のバイオマーカーとして有用であること(Furukawa et al., Ann Neurol 2022)、中脳黒質内に存在する「ニグロソーム1」と呼ばれる部位の鉄沈着が変化していることを明らかにしてきました。(島ら., Clinical Neuroscience. 2022)。
長期に経過したパーキンソン病患者さんには、視床下核への脳深部刺激療法が実施されることがありますが、その効果発現の仕組みは十分には解明されていません。私たちは、線条体のドパミン欠乏が、運動時および安静時における視床下核と大脳皮質が形成する神経ネットワークの機能的結合を変化させること示しました (Shima et al., Cereb Cortex Comm. 2023)。また、脳深部刺激療法を受けた患者さんを対象に、視床下核神経活動と頭皮上脳波の同時記録を行い、治療効果の発現機序の解明と、より効果的な刺激法の開発を目指しています(寺田ら., 第18回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス 2024)。
加えて、パーキンソン病の歩行障害については、線条体と前頭頭頂ネットワークが代償機構として機能していること、このネットワークの機能的結合が、注意機能と関連する前脳基底部の灰白質容積と相関していることも明らかにしました。(Nishida et al., Neurology. 2024)。
これらの研究成果は、運動症候に対する新しい薬物治療やリハビリテーションにつながることが期待されます。

神経画像グループ メンバー
澤本伸克、島 淳、寺田祐太
吉田(鏑木)紀子*、酒井遼介*
*大学院生